テナントがリニューアルに協力しないことを理由とする解除1
次の事例で、テナントBの請求は、認められるでしょうか?
事 例
① ショッピングセンターの事業主体(=賃貸人)Aは、売場面積拡張、新装オープンを計画
した。なお、同センターは、競合店舗の出店等の経営環境の変動などのため、全面改装の
必要が生じていた。
② Aは、全テナントに対し、その計画と、新装オープン後のセンターに入店希望しないものは
退店されたい旨を申し入れた。
③ AとテナントBを含む各テナントとの契約書(店舗賃貸借契約書)には、
「建物の設計・店舗レイアウトの変更の必要が生じたときは、テナントは異議なくこれに応
ずる。
テナントは、それに伴う工事費用を負担し、また工事期間中の休業補償を請求しない。」
旨定められている。
④ テナントBの店舗は、背面(別テナントとの境界)を除く三方面は、物理的に閉鎖できる
ような形状にはなっていなかった。
⑤ Aは、各テナントとの間で、一時退店と賃料の改訂に関して、交渉を開始した。
そして、テナントBを除く全てのテナントとの間で合意が成立した。
⑥ しかし、AとテナントBとの交渉は、Bが、賃料を従前の3分の1にすることなど、
あまりに非常識で受け容れられる余地のないような(実質的には交渉拒絶というべき)提案
をしたため、成立しなかった。
⑦ センターの休館日、工事着工日、新装オープンの日程も確定した。
賃貸人Aは、テナントBに対し、入店希望があれば期限○月○日までに回答されたい、もし
期限までに回答がなければ、権利放棄として扱う、と通告した。
しかし、Bは、上記のタイムリミットまでに回答しなかった。
⑧ ショッピングセンターは、一斉休館に入り、Bを除く全テナントは退店した。
Bは、商品を全て搬出した。しかし、什器備品を残置した。
⑨ Aは、Bが残置した什器備品を撤去して廃棄し、総額約70億円を投資して、ビルの改築・
増築工事を実施し、新たなブランドのショッピングセンターを新装オープンさせた。
⑩ Bは、占有の回復や賃借権の確認、損害賠償(約6500万円)を求めて、Aを訴えた。
問 題 Bの請求は認められるか?
解 答
(結論) 認められるのは、什器備品の廃棄の点(約120万円)のみ。
その他の請求は認められない。
(名古屋高判平9・6・25)
(理由)
ショッピングセンターは、直営店とテナントが一体となって、対外的には全体が一つの営業主体が経営する店舗のような形態を作り出してスケールメリットを追及するという特殊性がある。
上記④のようにテナントの占有の独立性が十分でなく、また、後述のように、売場を移動・変更する権利が賃貸人に留保されていることから、この賃貸借契約は、「百貨店のケース貸」と一般の「独立店舗の賃貸借」との中間的な性質と解釈される。
上記③のような契約文言からは、賃貸人において、売場のリニューアルやレイアウトの変更を行う必要があり、それが合理的なものであれば、テナントの位置と面積について、賃貸人に変更権が留保されていると解釈できる。
また、同契約条項から、そのリニューアルとレイアウト変更について、賃貸人はテナントに応分の負担を求める抽象的な権利があると解釈できる。
ショッピングセンターは、ある程度の期間が経過するとリニューアルを行うのが通常で、それは、集客力の維持を図るという意味で、ショッピングセンター側の義務という側面もある。
テナント側には、ショッピングセンターの一体性維持という観点から、改修工事に協力する義務があるといえる。
賃貸人から、リニューアルに協力すること、そして応分の負担をすることを求められたテナント側において合理的な理由もなく、それを全面的に拒絶すると、賃貸借の基本である信頼関係を破壊するものと評価されることがある。
本件において、⑤⑥⑦のような事情からすると、テナントBには賃借人としての義務違反があり、信頼関係を破壊するものである。
⑦の通告は、解除の意思表示といえる。
よって、解除は有効である。
なお、テナントBの残置した什器備品を撤去したことは違法とまではいえないが、同意を得ることなく廃棄した行為は不法行為にあたる。
したがって、損害はその限度(約120万円)で認められる。