遺留分
「遺留分」とは、兄弟姉妹以外の相続人について最低限相続できることが保障されている割合・地位のことをいいます。 遺言者(被相続人)の自由な意思を尊重しつつも、他方で相続人の期待や生活を保護するための制度です。
なお、遺留分を持っている人のことを「遺留分権利者」といいます。
遺言と遺留分
遺留分を侵害する内容の遺言書を作成すること自体は、可能です(当然には無効となりません)。
遺留分を侵害された遺留分権利者が、権利を行使(=遺留分減殺(げんさい)請求)をすると、その限度で、遺言は効力を失うことになります。
逆に言えば、遺留分減殺請求がなされない限りは、遺留分を侵害する内容の遺言も有効ということです。
遺留分の割合
それぞれの遺留分権利者は、相続財産に対して、次のとおりの割合で遺留分をもっています。
遺留分権利者 | 遺留分割合 | |
---|---|---|
配偶者のみ | 2分の1 | |
子のみ | 2分の1(複数いる場合は人数で等分) | |
配偶者と子 | 配偶者 | 4分の1 |
子 | 4分の1(複数いる場合は人数で等分) | |
配偶者と直系尊属 | 配偶者 | 3分の1 |
直系尊属 | 6分の1(複数いる場合は人数で等分) | |
直系尊属のみ | 3分の1 |
たとえば、相続人が、配偶者と子供3人の場合、配偶者は4分の1、子供はそれぞれ相続財産の12分の1ということになります。
遺留分算定の基礎となる相続財産
「遺留分算定の基礎となる相続財産」は、
① まず、被相続人が亡くなったときの被相続人の財産全部(遺贈の対象となった財産も含みます)に、次の贈与を加えます。
a 相続開始前1年以内の贈与(契約の成立時が1年以内かどうかで判断します。)
b 相続開始1年以上前の贈与で、被相続人と受贈者(贈与を受けた人)の両方が、遺留分を侵害することを知っていた場合
c 相続人の一人に対する贈与で、特別受益に該当するもの。
*減殺請求を認めることが相続人に酷であるなど特別の事情のない限りすべて遺留分算定の基礎とされます(最高裁平成10年3月24日判決)。
*持戻免除の意思表示は遺留分算定において効力を有しないとするのが多数説です(大阪高裁平成11年6月8日判決)。
② 次に、被相続人の債務を引きます。
これで、遺留分算定の基礎となる財産が確定します。
遺留分侵害の判断(侵害額)
次のAとBを比べることによって、遺留分の侵害を判断します。
A 「遺留分算定の基礎となる相続財産」に、遺留分の割合を掛けたもの(=各遺留分権利者の具体的な遺留分額)
B 遺留分権利者が得た特別受益財産+相続によって得た財産-遺留分権利者が負担する相続債務の額(被相続人の債を法定相続分で割ったもの)
AよりもBが小さいなら、遺留分を侵害されているということになります。 つまり、差額分(A-B)について、遺留分を主張できる、ということです。
遺留分の主張(請求)
遺留分を侵害されている場合でも、侵害するような贈与などが当然に無効となるわけではありません。遺留分権利者が、自ら「侵害するな(返せ)」と主張する必要があるのです。
この「(遺留分を)侵害するな」「侵害している分を返せ」と主張する権利のことを「遺留分減殺(げんさい)請求権」と言います。また、遺留分減殺請求権を行使することを「減殺(する)」と言います。
減殺の対象
減殺の対象となるのは、遺留分を侵害する行為です。具体的には、遺贈と、「遺留分算定の基礎となる相続財産」の①のところで挙げた3つのパターンの贈与(a、b、c)です。
なお、減殺請求を認めることが相続人に酷であるなど特別の事情があるときは、減殺請求の対象とならないこともあります(最高裁平成10年3月24日判決)。
減殺の順序
「遺贈→贈与」 という順序です。つまり、まず遺贈について遺留分減殺請求し、それでもまだ侵害されているのであれば、次に贈与について減殺請求する、ということです。
ο 減殺の対象となる遺贈が複数ある場合、全ての遺贈が価額(価値)に応じて均等に(案分されて)減殺されます。
減殺の対象(目的物)を選ぶことはできないとされています。
ο 減殺の対象となる贈与が複数ある場合、新しい贈与から順に、遺留分の侵害が回復されるまで、減殺されます。贈与の場合も、減殺の対象(目的物)を選ぶことはできません。したがって、「いちばん新しい贈与を減殺せずに、古い贈与を減殺する」ということは認められません。
減殺(減殺請求権行使)の方法
相手方は、遺留分を侵害する贈与や遺贈の相手方(侵害行為によって利益を得ている者)です。 具体的な行使の方法は、文書(書面)を相手方に送ります。法律上は口頭でも可能ですが、後で「言った」「言わない」の争いにならないように、文書を内容証明郵便で送るのがベストです。
行使期間
遺留分減殺請求権の行使期間については、民法上2つの制約があります。次の①と②です。
①
α 相続の開始(被相続人が亡くなったこと)
β 減殺の対象となる贈与や遺贈があったこと
このαとβの二つを知ったときから「1年間」
② 相続の開始から「10年間」
この期間内に行使しなければ、権利は消滅してしまいます。
最後に
以上のように、「遺留分」という制度は複雑で、非常に難しい問題がたくさんあります。
行使期間も決められていますので、遺留分が問題となりそうな場合には、早急に弁護士に
相談しましょう。