相続、不動産関連、労働問題をはじめとした、専門的で質の高い弁護士サービスを提供します。(東京、千代田区)

弁護士玉置暁へのご連絡はこちら

嫌悪すべき心理的欠陥と瑕疵担保責任(民法570条)

事例

 Xは,Yから土地2筆(本件土地)を買った。

 Xは,本件土地上に以前存在していた建物(本件建物)において,殺人事件があったことを,売買後に知ったことから,本件土地には瑕疵があるとして,Yに対して売買代金の50%相当額の損害賠償を求めた。

 なお,次のような事情がある。

 ・殺人事件は,本件売買の約8年半前に起きた。
 ・殺人事件は,女性が胸を刺されるというもので,当時新聞にも報道された。
 ・本件建物は,売買当時すでに取り壊されていた(更地での売買)。
 ・本件建物は,本件土地2筆のうち,3分の1強の面積である一方の土地上に存在した。
 ・本件土地付近には,多数の住宅が存在する。
 ・Xが,本件売買後,本件土地販売のために広告を出したところ,いったん本件建物が存在した東側の土地の購入を決めた者があったが,近所の人から殺人事件のことを聞き及び,キャンセルされた。Xは,その者に対して,他方の西側の土地の購入も勧めたが,隣の土地でも気持ちが悪いとして断られた。

上記Xの請求は認められるか。

1 解答

 一部認められる。    大阪高裁平成18年12月19日判決 (判タ1246,203ページ~) (上告)

2 理由

 民法570条の瑕疵には,目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥がある場合も含まれ,不動産の場合,住み心地の良さを欠き,居住の用に適さないと感じることに合理性があると判断される程度に至ったものであることを必要とする。

 本件事件は,女性が胸を刺されて殺害されるというもので,病死,事故死,自殺に比べても残虐性が大きく,通常一般人の嫌悪の度合いも大きいと考えられること,本件殺人事件があったことは新聞にも報道されており,本件売買から約8年以上前に発生したものとはいえ,その事件の性質からしても,本件土地付近に多数存在する住宅等の住民の記憶に少なからず残っているものと推測されるし,現に,本件売買後,…本件土地の購入を一旦決めた者が,本件土地の近所の人から,本件建物内で以前殺人事件があったことを聞き及び,気持ち悪がって,その購入を見送っていることなどの事情に照らせば,本件土地上に新たに建築される建物を,その居住者が,住み心地が良くなく,居住の用に適さないと感じることに合理性があると認められる程度の,嫌悪すべき心理的欠陥がなお存在するものというべきである。

損害額については,本件殺人事件は本件売買の約8年以上前に発生したものであり,しかも本件建物は本件売買時には既に取り壊されており,同時点では,嫌悪すべき心理的欠陥は相当程度風化していたといえること,その他一切の諸事情を総合すると,本件売買の代金額の5パーセントと認めるのが相当である。

掲載日:2012年5月12日
ページトップへ