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事例)借地上の建物の根抵当権者である金融機関に対する事前通知を定めた、土地所有者の念書の効力

事例

 次の事情のもとで、XのYに対する損害賠償請求は認められるか?

    X:銀行、本件建物の根抵当権者
    A:建物の所有者、根抵当権設定者、借地人
    Y:土地所有者、土地の賃貸人

(事情)

① Aは、Xに対し、銀行取引に係る債権を担保するために、根抵当権を設定した。なお、Xは、
  岡山県近辺における有数の金融機関であり、Aのメインバンクであった。
② 上記根抵当権設定に先立って、Xは、Aに対し、「借地に関する念書」と題する書面を交付
  し、それに地主であるYの署名押印を得るよう求めた。なお、Yは、不動産の賃貸借を目的
  とする会社である。
③ Yは、Aから上記念書を受領し、一部修正を求めた。
④ Yは、上記Yの求めにより修正された念書をAから受領し、これに署名捺印し、Aを介して
  Xに交付した。
⑤ 念書の内容には、次のような条項が含まれていた。
  「Aの地代不払い、無断転貸など借地権消滅もしくは変更を来すおそれのある事実が発生
  した場合、Yは、Xに通知するとともに、借地権の保全に努める。」
⑥ 念書の受領に際して、Xが直接Yに対し、念書の内容や効果について説明をしたり、Yの
  意思確認をしたことはなく、また、念書は1通作成されたのみで、写しがYに交付された
  ことはない。
⑦ 念書の差し入れについて、YがXから対価を受領したことはない。
⑧ 平成17年12月、Aは、再生手続開始の決定を受けた。
  また、このころAが開催した債権者集会で、再生の申立ての事実と、店舗閉鎖の事実が
  説明され、Xは、それらの事実を認識した。
⑨ Aは、平成18年1月分以降、地代を支払わず、平成18年6月、Yは、Aに対し、建物収去
  土地明渡請求訴訟を提起した。
⑩ Xは、同訴訟継続中の平成18年9月、Yから訴訟告知を受けて、初めて地代不払いの
  事実を知った。
⑪ 同年12月、同請求認容判決が確定し、翌年4月、同判決に基づいて建物が収去され、
  根抵当権が消滅した。  

 

解答と理由

(解答)

認められる。(ただし、過失相殺8割)  

(最高裁平成22年9月9日判決(金商No.1355, p.26))

 

(理由)

 念書中の事前通知に関する条項には、事前通知の趣旨が明記されている上、上告人(Y)は、事前に念書の内容を十分に検討する機会を与えられていたのだから、本件念書を差し入れるにあたり、地代不払いが生じている事実を遅くとも解除の前までに被上告人(X)に通知すべき義務を負う趣旨の条項であることを理解していた。

 そうすると、Yは、念書を差し入れることによって、上記義務を負う旨を合意したものであり、その不履行によりXに損害が生じたときは、損害賠償請求をすることが信義則に反すると認められる場合は別として、これを賠償する責任を負う。このことは、Yが、本件念書の内容、効力等につきXから直接説明を受けておらず、また対価を受け取っていなかったとしても、異ならない。

 Yが不動産の賃貸借を目的とする会社であること、本件念書を差し入れるに至った経緯、土地の賃貸借契約が解除されるに至った経緯等諸般の事情にかんがみると、Xの損害賠償請求が信義則に反し、許されないとまでいうことはできず、Xの過失を斟酌し、Xの損害から8割を減額するにとどめた原審の判断は相当である。

掲載日:2012年5月12日
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